収益改善の優先順位

小さくても、効果の出現を優先させます。数字上の収益貢献だけでなく、改善への参画意識を高めるのに有効に働くことが多いためです。改善取り組みの優先順位は、投入努力と得られる効果から決めるべきでしょう。ただ、やってみないと分からない課題も実際にはありますので、効果ありとした判断経緯はあとでも分かるようにしておきたいものです。現実には少ないでしょうが、投資不要で即効性があれば申し分ありません。次に掲げた収益改善の順位で取り組むことを、小生は推奨しています。現事業資源の活用度を向上させる課題が中心です。ここでは取り上げていませんが、新技術による新製品開発やM&Aなどは、これらのあとに取り組む課題となります。


投資不要の課題を優先させる

投資不要の課題は、事業資源活用度の向上をめざした取り組みになります。一般的には、次の順番で取り上げることが有効です。

  1. 収益力の高い製品を拡販する

    作成資料と要点は、「収益源マップによるプラス方向にかい離が大きい製品」と、「生産プロダクミックスで算出された収益貢献度の高いアイテム」が該当します。

  2. 単品赤字を解消する

    判断の元資料は、採算分析です。採算分析の元データは、変動損益計算書が該当します。

  3. 競合他社との差別化を推進する

    差別化検討の資料は、「マーケット収益モデル」をもとに作成する「強みの顕在化」です。競合分析の調査項目設定には、原則として「マーケット収益モデル」を利用します。強みをまとめる定型フォーマットはありません。できるだけ、箇条書きにすることをお勧めしています。つづいて、「採算分析」「生産プロダクトミックス」「製品体系」をもとに「収益源マップ」を作成し、差別化の優先対象を知り差別化計画の立案と実施です。

  4. 強みを活かす用途開発をおこなう

    作成資料は、「採算分析」「生産プロダクトミックス」「製品体系」をもとに「収益源マップ」を作成します。要点は、強みが活かせ、かつ伸びる市場の発見に役立てることです。その後、用途開発の提言まとめに入ります。

これらの課題そのものには、とくに目新しさはありません。しかし、うまく解決できていないのが実態といえましょう。問題は、収益改善に寄与する具体的な課題抽出と実行計画の不十分さにあります。


収益力の高い製品拡販

収益力の高い製品を拡販することがポイントです。これまでお手伝いしてきた多くの企業では、粗利、粗利率が重視されていました。その結果、収益改善に効果の低い方策が優先採用されることが見られます。効果の低い方策が優先されると、営業利益率が低下する原因となりかねません。結果的に、量の拡販に重点を置いた薄利多売の収益改善策になることが多いわけです。収益力の高い製品は、次の2つの視点から顕在化させます。資料は、「収益改善の分析資料」の各項目を参照お願いします。


単品赤字を解消する

赤字の種類

単品赤字は、客先別アイテム別の営業利益がマイナスの製品です。単品の損益は、採算分析によって明らかにします。赤字は、擬似出血と真性出血の2つです。文章ではやや分かりにくいかもしれませんので、図解しました。

 収益構造図(黒字)
図:黒字の収益構造図の例
 収益構造図(擬似出血)
図:擬似出血の収益構造図の例
 収益構造図(真性出血)
図:真性出血の収益構造図の例


擬似出血は、限界利益が黒字で営業利益が赤字の製品です。真性出血は、限界利益が赤字で、かつ営業利益も赤字の製品を指しています。限界利益は、売上高から変動費を差し引いたものです。この限界利益が黒字で擬似出血の場合、売上高が増えていくと、ある時点で営業利益が黒字に転換します。逆に売上高が減少すれば、営業利益の赤字幅が拡大してしまいます。

これに対し、真性出血は売上高が増えれば増えるほど営業利益の赤字も拡大します。限界利益が赤字という意味は、変動費を回収できていないということです。それでは、赤字はなぜ発生しているのでしょうか。次に、実際の例から考えてみましょう。


放置される単品赤字

ここ数年でお手伝いしたメーカー数社では、代表的な品種の単品別損益の赤字割合が偶然にもほぼ25%を占めていました。特別な理由による真性出血が一部ありましたが、ほとんどは擬似出血です。特別な理由とは、マイナーチェンジ品発売にともなう在庫処分とB級品処分のためでした。

ここでいう単品は、製品アイテムを指しています。メーカーの業種は、自動車部品、産業基礎資材、食品等です。客先別製品アイテム別にすると、赤字の割合はもっと多いのかもしれません。これらのメーカーで、赤字販売がなかば放置されている理由は何でしょうか。企業担当者へのヒアリング結果に小生の推定を加えた、単品営業利益が赤字(擬似出血)の理由を次に整理しました。区分上紛らわしいものもありますが、ご了承お願いします。


限界利益の確保を優先

  • 客先別製品アイテムに赤字もあるが限界利益は黒字であり、客先単位にも黒字である
  • アイテム別に赤字もあるが限界利益は確保し、品種別には黒字を維持している
  • 営業利益は赤字だが、稼働率引き上げによる固定費回収と営業利益増に貢献している
  • 原料高で原価が高くなったための赤字だが、客先が値上げに応じてくれない
  • 売価は他社と同等だが、当社の原価が高いため赤字になっている
  • 原価低減で来期には黒字転換できる予定だ

売上の確保を重視

  • 値段を下げないと失注し、ほかの注文も減る可能性があった
  • 値上げすると客先メーカーが購入中止の可能性があり、擬似出血を容認した
  • 汎用品なので競合先も多く、値段の勝負になっている
  • 競合見積もりにより、単価を下げるしかなかった
  • 遊休設備を稼働できるので、赤字だが変動費が回収されればと容認した
  • 赤字で受注したが、来期は客先使用量が増えて黒字化する予定だ

拡販政策による価格設定

  • 一定販売量を見込んだ価格設定なので、販売計画の達成で黒字転換を予定している
  • 大口客先に入り込む政策的な単価提示で赤字になっている
  • マーケットシェア引き上げを狙った価格政策による
  • 現状では赤字だが、取引条件が厳しいトップ企業への納品は、当社の高い品質水準が認められたためで、今後の拡販に競合上有効である

拡販政策では、マスメディアを用い、大量生産・大量販売をおこなうマスマーケティングが知られています。成長期の市場には有効とされ、日本でも昭和40年代には多用されてきました。このマスマーケティングは、市場で最大のシェアを持つマーケットリーダーが取ってきた戦略のことです。今回取り上げたメーカーの製品は、成長期の市場ではありません。どちらかといえば、停滞あるいは微増する市場で他社の代替需要を狙う拡販といえるでしょう。結果として、過剰な競合は起こるべくして起こっています。

したがって、単品赤字は当然に発生しているとしか思えません。低収益性に甘んじている多くのメーカーも、ほぼ同様の根源があるようです。技術的・品質的に、ほとんど他社と差別化されていない市場での競合となっています。しかも、需要に対するメーカーの総供給能力は上回っているはずです。それでは、単品赤字を解消するためにどうするべきでしょうか。


赤字解消策とは

前項の単品営業利益の赤字理由の一部を除き、赤字が続く悪循環におちいっているようにも見えてきます。自らの理由は挙げられても、マーケットから見た実態はお分かりになっているでしょうか。たとえば、競合他社の売価、製造原価、品質、納入条件などについてです。とくに問題なのは、価格が受注可否の最大要因となっていることでしょう。

他社品と差別化がほとんどない場合は、とりあえずの赤字解消策として何ができるのか知恵を出し合うことをお勧めします。赤字解消策は、値上げだけではありません。代替品への変更、数量を増やす、代替原材料の採用、歩留まり改善などの原価低減、納品頻度・最小受注単位などの納入条件変更による物流費の低減などもあります。成果は、必ず得られるはずです。今までお手伝いしたメーカーで、成果に結びついた要因を幾つか紹介しましょう。


  • 対顧客の損益は黒字だが、単品まで見ていなかった。来期からの値上げが了解された
  • 今まで過剰品質を承知で納品していたが、顧客の要求仕様に合う製品に代えて赤字を解消した
  • 過去の原料値上げによる上昇分を負担していただくことにした
  • 納品量を減らさざるを得ないと申し入れたら、値上げを認めていただいた
  • 単品赤字だからと丁寧にご説明し、値上げの了解をしていただいた

これだけでは、根本的な解決策は見いだせないはずです。そこで、次の視点からの取り組みを推奨しています。


  • 価格競争とならない差別化の推進
  • 強みを活かした用途開発

これらの内容を、次に解説します。


競合他社との差別化を推進する

差別化する目的は、他社の追随を許さず、高い収益性を継続的に確保することです。方策としては、現製品と競合する他社品との差別化、競合が生じないか少ない用途開発の実行を挙げられるでしょう。用途開発とは、マイナーチェンジを含む既存製品を新たな市場に投入し、事業の拡大を図る戦略のことです。

差別化については、「収益改善の分析資料」に掲載した、「マーケット収益モデル」「収益源マップ」「競合分析」の項に記載しています。それぞれの資料は、ほかにも活用されるため差別化だけについてまとめて述べていませんが、内容の確認をして下さい。


強みを活かす用途開発をおこなう

「企業の持つ強みは何ですか」と伺うと、技術の紹介をされることがほとんどです。しかし実際は、技術そのものが強みになることはほとんどありません。強みは顧客が決めるもので、技術を使って提供できる何かになるのが普通です。ある電子機器に組み込む機能部品メーカーでのことでした。当該メーカーの製品は、世界に先駆けて開発したもので、技術・品質では世界のデファクトスタンダードになっています。しかし、数度におよぶ検討会を経て得られた結論は、強みは技術そのものではなく、顧客対応力と供給力、品揃えだと認識されました。つまり、強みは顧客が決めるもので、技術を使って提供できる何かになるわけです。この強みを活かし、用途開発につなげることが次に求められています。

再録ですが、用途開発とはマイナーチェンジを含む既存製品を新たな市場に投入し、事業の拡大を図る戦略を指しています。現実には、即効性は期待できません。小生がお手伝いした建築・土木資材メーカーでみると、収益で事業の中心になるまでには約20年を要しています。内閣府の年次経済財政報告、平成25年度版によれば次の2つの利益計上までの調査結果が紹介されています(第2章1節、177頁)。その部分を引用しました。括弧「 」内が引用文です。


  • 文科省調査では5~6.5年程度
    「投資による利益発現までの期間を文部科学省科学技術政策研究所の「平成21年度民間企業の研究活動に関する調査」から試算すると、5年程度とみられる。研究開発期間が3.4年程度、終了後に商品化され利益が発現するまでに1.6年程度かかる。業種別に見ると、化学は、研究開発投資の懐妊期間の長い医薬品が含まれていることから、6年半程度と比較的長い期間となっている。」
  • 経産省調査では4.2年
    「経済産業省「研究開発促進税制の経済波及効果に係る調査」(2005年)では、1990〜1999年で研究開発期間の平均が2.9年、市場投入までの期間の平均が1.3年、収益計上までの期間の平均が合計で4.2年となっている。」

強みと用途開発について述べましたが、どのようにすれば用途開発の対象となる市場が発見できるのでしょうか。小生は、製品体系と、収益源マップ作成により、強みを活かすことができ、かつ伸びる市場発見に役立てることを推奨しています。

この内容についても前項の差別化同様、「収益改善の分析資料」に掲載した「マーケット収益モデル」「収益源マップ」「競合分析」を参照して下さい。

(20141123 10:50)

(文字数 5273,5099(空白除く),漢字41%、343行(40字/行),原稿用紙18枚,テキスト10.2KB)



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